期間限定の熱に満ち溢れた世界から隔絶された建物にある一つの個室を覆う熱は夏と言う季節から直接与えられるものとは違っていた。人間の口から零れる生暖かい吐息が合わさったそれは獰猛を隠した皮を剥がそうとしていた。幾度も繰り返される行為によって底に嵌り落ちた二人はぎし、とベッドの軋む音など受け入れずに息を交換し合う。
「ん、うぁっ……き、せっ」
「どうしたんスか?まだ、続けたいっス」
隠し通せない羞恥によって漏れる喘ぎを抑え込み、一時の解放に身体を預ける笠松の腕を黄瀬は掴む。笠松が抱いた行為の終点への到着の期待を黄瀬は楽しそうに崩すと再び貪り始める。潜伏していた濫りがわしい音がけざやかに聞こえ始め、更に羞恥を引き立てる。
「ひっ、ぁっ」
「もう少しだけ聞かせてください、その声」
「ふざ、けんなお前後でシバく……!」
「それは勘弁して欲しいっス!でも……ね?」
酸素を求めたがる笠松の身体の望みを叶えてやると、黄瀬は女ならば面倒なく堕ちる笑みを作って懇願した。拒絶できないと見透かしきっている黄瀬の態度に笠松は鉄拳を炸裂させたい衝動に駆られたが、熱に奪われた力はそれを実行させなかった。意図的に生産された軋んだ悲鳴に笠松の顔が瞬く間に強張る。その表情に黄瀬の欲望が剥き出しにされる。深く侵食してきた舌は一方通行の情欲を強引に与えていたが、快楽に負けた舌がその塊を受け入れるようになった。
笠松は立て続けに与えられる快楽に耐えながらも抜け道を探していたが、黄瀬は一度も抜け出す可能性を与えずに貪り続けた。微かに落ちる喘ぎが逆に黄瀬の欲望を突き上げていることなど知らずに、笠松は抵抗を続けていた。しかし、黄瀬はそれを笑いで無効化した。
常識の熱が存在しない室内に二つの荒々しい息が数秒の隙間を通過する。黄瀬は近付いて来る出口に感付いたようで、拘束していた笠松の腕を解放してやると静かに唇を離した。それからしばらくして、二人は新鮮な空気に飢えた獣のように息を吸い込んだ。
「はぁっ……キスってこんなに体力使いましたっけ?」
「知らねーよ!お前どんだけ長くやったと思ってんだ!」
「センパイが気持ちよさそうに喘ぐから……ちょっ、痛いっス!」
「勝手なこと言ってんじゃねぇよ本気で苦しかったんだよ馬鹿野郎!」
何度も深く息を吸い込み呼吸を整える笠松の姿を見た黄瀬は気持ちが華やいだが、否定するように飛んできた拳が笠松の言葉を打撃に変換し、黄瀬の頭上を直撃した。「手加減して欲しいっス!」と頭を抑えながら嘆く黄瀬の手は笠松の腰をがっしりと固定するように捕まえていた。
「センパイよかったんっスか?もっと盛大に祝ったりじゃなくて」
黄瀬は思い出したように笠松に尋ねた。バスケ部全員で笠松の誕生日を祝い終わった直後、笠松は黄瀬だけを呼び出して盛大な祝福の輪から抜け出した。その意味を即座に理解した黄瀬は高揚した感情に従ったのだった。
「嬉しい事には変わりねぇけどむず痒いんだよああいうのは……」
「あぁ確かにセンパイ苦手そうっスね。でも、こうして二人だけでセンパイの誕生日祝えるのが凄い幸せなんスよ」
黄瀬は笠松の腰を固定していた手を離すと、くいっと顎を持ち上げた。視界に映し出されるのは互いの顔。黄瀬の焦りをまるで感じさせない表情は笠松の羞恥をじわじわと熱くさせる。黄瀬は赤みを帯びていく笠松の顔によって揺らいだ理性を正そうと模索するが、欲望に忠実な身体はそれを聞き入れず、唇同士の距離を縮めていく。
「キス、したいっス」
再び唇が触れそうになる瞬間、黄瀬は先程までの余裕を隠して言った。僅かの距離が焦れを強調する。笠松は停止直前の思考を働かせようとするが、少し近付けば触れてしまいそうな距離がそれを正常に戻すことを拒む。そんな笠松の様子を楽しむように、黄瀬の瞳は笠松だけを射抜いていた。
「……その前に言うこと忘れてねぇか」
「は、はい?」
黄瀬は唐突さと同時に恥じらいが含まれた笠松の言葉に驚きを露にした。標的を一度捕らえたら逃がさない瞳が一瞬にしてその姿を潜める。吹きかかる息ですらくすぐったさを覚える距離が黄瀬の躊躇を崩そうとしていた。
「お誕生日おめでとうございます。一緒にバスケしてくれて、オレと一緒に居てくれて、ありがとうございます。大好きっスよ、センパイ」
その言葉を引き金にして崩された躊躇に従った黄瀬は靄がかかった距離を無くした。黄瀬は心の底からの笑顔を笠松に見せつけるようにして、深く甘みに満ちた味を満喫する。笠松は朱に染まった自身を放り捨てたいと思ったが、全面に出された黄瀬の喜びに逆らうことができなかった。ぎし、とベッドの軋む音が聞こえると、二人は恥ずかしそうに笑いあった。
12/07/29
笠松先輩誕生日おめでとうございますううううううううううう!!!!!!!!!!!我らが海常の主将笠松先輩!!!!!無理しすぎて倒れてしまわないかいつも心配ですが決して諦めないところや海常のみんなを信じきっているところが本当に大好きです。男前って言葉じゃ足りない。笠松先輩おめでとうございます。